いわゆる「自律神経が乱れる」と言われている状態は、自律神経の働き方そのものが変化していることが多くあります。
ここでは、自律神経症状が起きるメカニズムを、順を追って整理していきます。
神経可塑性(かそせい)とは、脳が経験や学習、環境の変化などによって、その働き方を柔軟に変化させる性質のことです。
私たちは、この性質によって、新しいスキルを習得したり、リハビリで機能を回復させたりすることができるようになっています。
神経可塑性の特徴は、繰り返される刺激によって良い方向にも悪い方向にも少しずつ変化していくという点です。
例えば、ストレスや緊張が長期間続いていると、身体はその状態に慣れていき、次第に脳は「緊張している状態が普通」と認識するようになります。
逆に、リラックスやしっかりと休む習慣を身に着けることで、次第に脳は「安心している状態が普通」と認識するようになります。
神経感作(かんさ)とは、神経が刺激に対して過剰に反応する状態のことです。
本来、神経は必要な刺激に必要な分だけ反応するのですが、ストレスや体の負担が長く続くと、神経の反応が徐々に敏感になっていきます。
そのため神経感作が関与すると、本来であれば問題にならないような刺激でも、神経が強く反応してしまい、身体の不調が起こりやすくなります。
神経感作には、末梢感作と中枢感作があり、それぞれ神経が過敏になる場所や仕組みが異なります。
末梢感作とは、皮膚・筋肉・関節などの末梢組織が、通常では感じにくい刺激でも、過敏に感じてしまう状態です。
中枢感作とは、脳や脊髄などの中枢神経が、通常では感じにくい刺激でも、過敏に感じてしまう状態です。
神経はもともと、体の変化にすばやく反応して身を守るための仕組みを持っています。
といった体の変化を神経が感じ取り、脳に情報を伝えることで体の状態を調整していくためです。
本来であれば、こうした反応は体を守るための正常な働きなのですが、強いストレスや緊張状態が長く続くと、神経はその状態に適応しようとして、次第に刺激に対して敏感に反応するようになることがあります。
その結果、少しの体調の変化や、わずかな身体の違和感など、普段なら気にならない刺激に対しても、
神経が強く反応するようになっていくというわけです。
ホメオスタシス(恒常性)とは、外部・内部の環境変化に関わらず、状態をできるだけ一定に保とうとする体の仕組みのことです。
体の細胞や臓器は、ある程度安定した環境で最も正常に働くようにできています。
・体温が上がりすぎないようにする
・血圧が下がりすぎないようにする
・神経の働きが乱れすぎないようにする
このような調整を常に行うのは、細胞や臓器が働きやすい環境を維持するためです。
これは、体の機能を正常に保つための防御システムでもあり、生命維持には欠かせません。
ストレスや不規則な生活によってホメオスタシスが崩れると、自律神経失調症や不眠、慢性疲労、さらには精神疾患(うつ病など)につながることがあります。
アロスタシス(動的適応能)とは、環境の変化に合わせて体の状態を調整し、結果として安定を保とうとする仕組みのこのとです。
体にはホメオスタシスがありますが、私たちは常に同じ環境で生活しているわけではありません。
暑い日もあれば寒い日もあり、さまざまなストレスを感じたり、睡眠不足になったりすることもあります。
そこで働くのが、アロスタシスです。
これらは環境に適応するための反応で、体は「同じ状態を保つ」だけではなく、「環境や状況に合わせて状態を変える」ことでバランスを保っています。
慢性的なストレスや緊張状態が繰り返されることで、身体に負荷が蓄積された状態を、アロスタティック・ロード(アロスタティック負荷)といいます。
変化に合わせて、柔軟に適応しようとするアロスタシスですが、ストレスが過度であったり長期間続いたりすると、無理な適応が続き、結果的にツケ(負荷)が溜まります。
例えば、仕事のストレス・睡眠不足・将来への不安などが続く状態で、体がそれに適応し続けようとした結果、以下のような変化が起こることがあります。
この状態が続くと、動悸・めまい・不眠・倦怠感など、さまざまな自律神経症状が現れやすくなると考えられています。
これまでの流れを整理すると、次のようになります。
① ストレスや環境の変化
仕事・人間関係・睡眠不足など、さまざまな負担が体にかかります。
② 体が環境に適応しようとする(アロスタシス)
体は環境に合わせて、心拍・血圧・ホルモン・自律神経の働きを調整します。
③ 適応が続くと負担が蓄積する(アロスタティックロード)
適応が長く続くと、体には少しずつ負担がたまっていきます。
④ 神経の働きが変化する(神経可塑性)
体は環境に合わせて、神経の働き方そのものを変えていきます。
⑤ 神経が過敏になる(神経感作)
神経の変化が続くと、体は刺激に対して敏感になり、わずかな負担でも強く反応するようになります。
⑥ 自律神経の症状として現れる
この状態になると、動悸・めまい・不眠・倦怠感など、さまざまな自律神経症状が現れることがあります。
自律神経症状は突然起こるものではなく、段階的な変化の中で生まれます。
自律神経の不調は「壊れている」のではなく、「適応し続けた結果」として起こっている状態です。
環境や生活を整えていくことで、神経の働きも少しずつ変化していきます。
焦らず、ご自身のペースで整えていくことが大切です。