『心のエンジン』のかけ方　後編（抑うつ状態向け）

抑うつ状態になると、「やる気が出ない」というより、「気力そのものが湧かない」「身体が動かない」といった感覚に包まれます。

これは、病気としての「うつ病」に限らず、ストレスや疲労の蓄積、環境の変化、心の傷などでも起こり得る状態です。

心のエンジンには、そんな過剰なストレスにさらされると止まる“しくみ”があります。

1： 脳の機能低下（前頭葉の働きが鈍る）

前頭葉は「意欲」「計画性」「感情の制御」を担う場所。

抑うつ状態では、ここの活動が落ちることで――

•何をしたらいいか分からない

•動く気力が出ない

•先のことがまったく考えられない

という状態になります。これは、“やる気がない”のではなく、脳の機能が“おやすみ中”になっている状態です。

2：神経伝達物質の乱れ（セロトニン・ドーパミンなど）

気分や行動に関わる重要な物質が、抑うつ状態では不足したりうまく働かなくなります。

•セロトニン：心の安定に関わる

•ドーパミン：意欲や喜びに関わる

•ノルアドレナリン：集中や覚醒に関わる

これらが乱れることで、「嬉しくない」「楽しくない」「動けない」が続くことがよくあります。

3：身体の省エネ反応（慢性ストレス・自律神経）

長くストレスを抱えると、身体は“命を守るため”に省エネモードに入ります。

心拍・血流・呼吸・体温などの調整も乱れ、起き上がるだけで大きな負担になることも珍しくありません。

1：“何もしない時間”を肯定する

「今日はなにもできなかった…」と落ち込む日もあるでしょう。

でも、それは回復に必要な時間です。

省エネモードの中でも、脳と身体は少しずつ修復を進めています。

2：五感を使った“今ここ”の感覚を取り戻す

遠くの未来や過去ではなく、「今ここ」に意識を向けると、脳のストレスが少し和らぎます。

•手に感じる温もり

•好きな香り

•小さな音楽の余韻

•湯気の立つ白湯の一口

思考を手放して、「感じる」ことだけに集中してみてください。

3：「これでいい」と言える練習

他人と比べなくていい。

昨日よりできたorできなかった。を数えなくていい。

「今日、生きていた」それだけで、十分すぎるほど意味がある一日です。

もし、今のあなたが苦しさの中にいたとしても、心のエンジンが止まっていることは、「壊れた」からではありません。

あなたが苦しんでいるのは、怠けているからでも、弱いからでもなく、

脳と身体が「これ以上がんばらせないように」とブレーキをかけている状態です。

だからこそ必要なのは、「がんばる」ことよりも、逆に「休むこと」「許すこと」「整えること」です。

回復には時間がかかることもあります。

でも、その間もちゃんと前に進んでいます。

どうか、自分を責めずに、静かな時間を大切にしてください。