なんちゃって芝浜

「はぁ～やっと今日も終わったぞ」と思って家に帰り、筋トレを少しやって、晩御飯を食べ、風呂に入り、ゲームをして、最後に床に就く。

別に悪くはない至って普通の生活だと、ここ最近同じようなルーティンで過ごしておりました。

もちろん、睡眠時間を気にしながらゲームに勤しむわけですが…まぁあたくしもかなり好きなもんで、お気に入りの新作ゲームが出た暁にゃついつい気がつけば25時、たまに26時なんて事もしばしば。

そこから厠へ行き用を足すついでに、贔屓している噺家さんの落語を一つ聴いて、気分が良くなってから寝るもんですから、布団をかぶる頃にはいつもほくそ笑んでおります。

さて、そんな生活を1週間も繰り返していれば当然、朝は寝不足でございます。

重たい目蓋を擦りながら、階段を下りる時は手すり頼りに半まなこ。

足元を見ずとも幾数回と踏んできた我が家の階段ですから、大抵は無事に降りる事が出来ます。

ある休みの朝、昨夜聴いた「芝浜」を思い出しながらいつもの様に寝ぼけまなこで、にやにやとほくそ笑んでおりました。

「芝浜」というのは、腕はいいが酒好きで怠け者の棒手振りの魚屋の勝五郎が、ある朝ひょんなことから浜で大金を拾うも、できた女房に諭されて改心していくという屈指の人情噺でございます。

あたくしは落語の中でも「芝浜」が大好きでして、聴いた明くる日にゃ話し方まで「おう、ちっと商売（しょうべぇ）行ってくらぁ」と言いたくなる心地です。

この時も心持ち良く「いっちょ浜でも行ってみるか。ひょっとして革財布が落ちてたりしてなっ」と、朝早くもないのにすっかり気分は芝浜の中。

なんちゃって勝五郎は意気揚々と階段を駆け下りた。

しかし、そこはお決まりのおっちょこちょい。

いつもは頼みの手すりをしっかり握っているが、俸手振りの真似事なんてするから階段を踏み外しドタドタドター！っとまっつぁかさまに堕ちてdesire。

変な声は出るは、尻は打つは、変な汗はかくは、変な声は出るはのテンテコ舞。

おかげで目は覚めたが興も醒めた。

その日の晩、流石に懲りたかこの日はゲームもせず時刻は23時。

いつもの様に厠へ行きスマホ片手に用を足す。

「さてさて今日はどんな落語を聴こうかな」

「おっ、3代目桂三木助師匠の芝浜があるじゃねぇか・・・だが、待てよ・・・」

「よそぉ、また落っこちるといけねぇ」